徹底解説[中・大規模 木造建築の省エネ]
仙田満氏(環境デザイン研究所代表)

更新日2016年07月14日

保育・教育施設の省エネ設計

徹底解説 中・大規模木造建築の省エネ 仙田満氏 環境デザイン研究所代表

昨年、省エネルギー基準が14年ぶりに改正された。住宅に高気密・高断熱性能が求められる一方で、中・大規模木造建築には、どのような省エネ性能が求められているのだろうか。教育関連施設を中心にこれまで多くの中・大規模木造建築を手がけてきた、東京工業大学名誉教授・仙田満氏に聞いた。

取材・文=椎名 前太 人物撮影=石井 真弓
─中・大規模建築の省エネ性能について、一般的に建築主はどれくらい関心を持っていますか?

私が設計する中・大規模木造建築は主に、保育園や大学など教育関連施設です。住宅と比べれば利用者が施設の内部に滞在する時間は短く、断熱性・気密性の要求レベルは高くありません。むしろ、子どもの活動にとっての快適な環境づくりという意味で、通風や採光に対して建築主の関心が向けられるケースが多いようです。

こうした背景から、「Q値を2.7以下にしてほしい」というような具体的な断熱性能をオーダーされたことは今までありませんでした。しかし、今どきの住宅はほとんどが高気密・高断熱仕様です。暖かい家に住んでいて、学校に来ると寒い、というわけにはいきません。そのためサッシはペアガラスが当たり前となってきています。

また、私は「冷暖房費を園児1人当たり1年間で1万円以下にしたい」といったように、ランニングコストの目標を定めています。つまり、園児が200人なら年間200万円以下にしたい、と。そうすると必然的に建物は、ある程度断熱性、気密性を確保しなければなりません。どの程度の性能にするかは、省エネ法が改正されたばかりということもあり、今のところ地域区分ごとの次世代省エネ基準(平成11年基準)を目安にしています。また、各自治体で標準仕様を用意している場合はそれに合わせ、ない場合は周辺の類似施設を参考にします。

─断熱材や冷暖房設備はどのようなものを採用していますか。

断熱材は内部結露の心配が少ない発泡プラスチック断熱材をできるだけ採用していますが、住宅で使うものと同じで特殊なものではありません。これは冷暖房設備も同じです。ただし、中・大規模木造建築は、使用目的の異なる部屋が複数あることが多く、それぞれ人の滞在時間が異なるため、必ずしも住宅のように建物内部の温熱環境を均一にする必要はありません。その空間に人がどれだけの時間いるかによって設備を使い分けています。

たとえば、埼玉県北本市の「緑の詩保育園」[事例1]では、暖房設備に関しては、滞在時間が長く、温熱環境に最も配慮すべき0歳から1歳児までの保育室と、2歳から3歳児までの保育室には、蓄熱式の床暖房を採用しました。深夜電力を利用して蓄熱材を温めるので、ランニングコストが安く済みます。一方で、昼間は同じ敷地内の幼稚園の建物に移動することになっている4歳から5歳の子たちの保育室には、オン・オフの切り替えがしやすい温水式床暖房を採用しています[図2]。

冷房はすべてエアコンです。気をつけているのは、本体や配管が見えないよう、床の段差を利用したベンチなどの下に納めることです。木造露しの構造に機械類が露出しているのは、たとえばお寺の堂内に大型スピーカーがあるかのようで、ちぐはぐな感じがするからです。

事例1緑の詩保育園

図1 花保育室平面図[S=1:400]

図1 年齢ごとに保育内容が異なるので、部屋を分け、必要な暖房設備を計画している。子どもは床面から50cmほどのところにいることがほとんどなので、床の温かさが重要となる。そのため、床暖房を設置した。

図2 [S=1:80]

図2 [S=1:80] 12つのハイサイドライトから光を採り入れたホール。流通材を使うことでコストを抑えている。
─設備に頼らない省エネの方法はありますか。

保育園や幼稚園では特に床が重要です[事例2・写真3]。なぜなら幼児は寝転ぶなどして、体全体で床に接するからです。そのため、弾性の確保と床から冷気が伝わらないようにするため、フローリングの下には必ず根太を入れるようにしています。

また、日本の保育園・幼稚園のよいところは、部屋と外の間に外廊下があることです[写真1]。欧米などほかの先進国の児童施設では見かけません。この空間は住宅でいう縁側のように、部屋からも外からも直接つながっている便利な場所なので、重要な子どもたちの遊び場となります。快適な室内しかない建物では、子どもは外で遊ぼうとしません。このような外でもなければ室内でもない微妙な空間を設けることが、子どもを外で遊ばせるきっかけになります。とはいえ、寒冷地の場合は、外側にサッシを付けて、より快適性を上げることもあります。

事例2港北幼稚園

港北幼稚園 2保育室と外のテラスとの間に、幅3.5mの廊下を設け、子どもの遊び場とした。廊下は3m程度の幅に設計することが多い 34歳児の保育室。子どもがさまざまな感触の床に触れられるよう、奧に畳コーナーをつくった。変化のある床構成にするように心がけている
建築知識研究所

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