徹底解説[ 断熱・省エネ ]山田浩幸氏
(yamada machinery office 合同会社)(2ページ目)

更新日2016年09月02日

風を取り入れながら室内の空気を動かす

─もう1つの風のコントロールについてはどうですか。

風が特に重要な役割を果たしてくれるのは、夏です。通常、夏の風は南から北に向かって吹きますから、南面を風の入口、北面を出口としてセットで開口部を考えます。このとき北側の窓はできるだけ高く設けて、南北で高低差をつけることが重要です。重力換気を利用して空気の流れをつくりだし、窓を開ければ空気が抜けるようにするためです。南から涼しい外気を取り入れ、室内で温まった空気と湿気を北側の窓から屋外に排出する。この仕組みを利用すれば、密集地など風の通りが悪い立地でも室内に空気の流れをつくりだせるのです。

窓の種類は、操作のしやすさ、風の取り入れやすさ、防犯や雨対策などを比較検討して選定します。

─風の通りや光の入れ方と、間取りとの関係はありますか。

敷地の中で、風の通り方や光の入り方が最も心地よい位置にメインの居場所となる部屋を配置します。多くの場合、それはリビングになります。そのうえで、各部屋にもなるべく光を届け、風を通す工夫をしていきます。風は地域によって異なりますが、月ごとの平均的な風向きは、気象庁のデータなどで、すぐに調べることができます。土地ごとに、特定の期間に吹く風向きの「卓越風」も分かるでしょう。

実は、これまでのことを設計に反映するだけで、「エアコンのいらない家」は8割がた、できてしまうのですよ。

環境を生かす設計に一般の期待が高まっている

─家を建てる人のニーズに変化は感じていますか。

特に10年ほど前から環境への意識が高まり、建物に自然の力を取り入れる設計が進みましたね。さらに、東日本大震災を経てエネルギー問題への関心も高まったことで、省エネルギーに関心を示す建築主の方が増えてきていると思います。いまや、環境をデザインした住宅が、一般の方々からも求められるようになっていて、そういったことが建物に現れていないと時代遅れになっているのかもしれません。

こうしたニーズに対応している設計事務所や工務店もあるはずですが、新築を考えている人のなかには、設備設計をしている私の事務所に直接住宅設計の相談をしにくる人もいます。私のほうでプランや建物の形状などを決定したうえで、意匠設計者を選定するようなケースもありました。

とはいえ、先ほど申し上げたような「太陽光と風の取り込み」をしっかりとシミュレーションしていれば、「エアコンのいらない家」を実現するのはそれほど難しいことではありません。実際、私がこれまでに光や風の要素から設計した家で、クレームを受けたことはないです。暑さの厳しかった今年の夏の状況をヒアリングしましたが、皆さん一度もエアコンをつけずに過ごしたということでした。私自身も驚いています。

─住環境を考える際、夏と冬どちらに重きを置かれますか。

兼好法師の「夏を旨とすべし」という言葉は有名ですが、現代の住宅は「冬を旨とすべし」だと考えます。夏の日差しは、葦簀や遮光ネットなどを使用すれば竣工後でもカットすることが可能です。あとは通風さえ確保すれば、室温の上昇はかなり抑えられます。それ以上の暑さはエアコンを少し使って解消できます。必要なときにはガマンせずエアコンを使うことが大切です。一方で、冬の日差しを後から取り込むことは、不可能です。まずは冬の日射熱を取り入れること、暖房のことを考えるべきだと思います。

すべての形状には環境のストーリーがある

─実際に手がけた事例には、どのようなものがありますか。

埼玉県さいたま市の住宅の建築主は、やはりエアコンが好きではない家族でした。以前は建売の戸建住宅に住んでおられましたが、光や風を上手に取り入れる家がどうしてもほしいと新たに土地を入手し、私の事務所に相談に来られた経緯があります。敷地は南側で道路が接するため、日当りは確保されていましたから、あとは風をどのように通すことができるかに重点を置きました[図2]。

南側に大開口を設けた場合、日光は十分に採り入れることができますが、風の強い日には開放できないというデメリットがあります。それで、窓は冬の日差しを取り入れる窓と、夏の風を取り入れる窓に分けて設置しました[写真3・4]。リビングとダイニングの2つの吹抜けを介してつながる北側の2階ロフトには、高窓を設けて風を抜きます。また、温度センサー付きの排熱ファンを設け、一定の温度に達すると自動的に作動して熱を外に出すようになっています。また、敷地に向かって吹く風をブロックしないように、道路と敷地の間に立てる塀はルーバーとしています。視線を遮り、同時に風を通すためです。

なお、屋根が建物の中央に向かって下がった格好になっているのは、北側に隣接する家のバルコニーに日中の光を届ける配慮をしたためです[図3]。一つひとつの家の形状には、敷地条件に基づいた必然性があり、裏付けとなるストーリーがあるべきだと考えています。

─最新の「エアコンのいらない家」が11月に完成したとのことですが。

設備や間取り、仕上げといった仕様にコストがかからない住宅を、東京都練馬区で実現しました。南側に向けて傾斜する屋根の北側を越屋根のようにし、高窓を設けて、夏期には自然対流による通風を促します。1階南側のリビングでは、外部にブラインドを設置し、夏の日射をカット。リビングの床のうち開口部付近はタイル仕上げとして、冬の日射熱を蓄えるようにしています[前ページ 事例1]。今後も、ローコストで実現できる「エアコンのいらない家」に挑戦したいと思っています。

事例2さいたまM邸

図2 平面図[S=1:300]

図2

図3 建物の南側外観の立体図

図3 [CG作成:ケミカルデザイン]
図 4吹抜け。写真右下の開口部からは日差しが差し込み、右上部からは通風を取り込む 5南側外観。上部の通風用の窓は軒の出によって日差しを遮る [写真:小島純司]
山田 浩幸
P r o f i l e
山田 浩幸
(やまだ ひろゆき)
  • 1963年新潟県生まれ。
    日本設備設計、郷設計研究所を経て、
    2002年に設備設計事務所yamada machinery officeを設立。
    2007年第6回環境・設備デザイン賞2007優秀賞。
    2009年第10回JIA環境建築賞住宅部門入賞。
    2012年住まいの環境デザイン・アワード2012
    環境デザイン最優秀賞受賞。
    2013年住まいの環境デザイン・アワード2013
    ベターリビングブルー&グリーン賞受賞。
    同年日本建築学会作品選奨2013受賞。
建築知識研究所

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