徹底解説[省エネ・断熱]竹内昌義氏
(東北芸術工科大学教授 みかんぐみ共同主宰)

更新日2016年12月15日

断熱性能を高めるとプランの自由度が高まる

徹底解説[省エネ・断熱]竹内昌義氏(東北芸術工科大学教授 みかんぐみ共同主宰)

国は、2020年までに標準的な新築住宅でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現し、2030年には新築住宅の平均でZEHを実現することを目標に掲げ、省エネ住宅への対応は急務といえる。そこで、エコハウスの研究で知られる東北芸術工科大学教授竹内昌義氏(みかんぐみ共同主宰)に、これからの省エネ住宅に関する基本的な考え方や設計のポイントなどについて聞いた。

取材・文=松浦美紀 人物撮影=石井真弓

窓の性能アップにより間取りの制約がなくなる

─省エネ住宅についての基本的な考え方や設計上のメリットなどについて教えてください。

単純な話ですが、住宅の断熱性能を上げれば、消費するエネルギーは減ります。断熱材が増えるぶん壁は厚くなりますが、断熱性能が高まることで熱の出入りが少なくなり、プランの自由度は高まります。吹き抜けはつくり放題ですし、間仕切も要りません。玄関を区画する必要もなくなります。この3つだけとっても、プランの制約がかなり減ることが分かると思います。

─住宅の温熱環境を高めるためには窓を小さくしたり、吹抜けのある大空間を諦めざるを得ないというイメージがありますが…。

従来の住宅は窓が弱点で、いくら断熱材を入れても窓から熱が逃げてしまう状態でした。ところが最近は窓の性能が飛躍的に向上しており、開口部を大きく取った高気密・高断熱住宅も見られるようになっています。大きな吹抜けをつくったけれど、やっぱり寒いからと上下の部屋を間仕切る必要もありません。窓はYKK APの「APW430」など、高性能のLOW-Eトリプルガラス樹脂サッシが理想ですが、方位やプラン、予算によって使い分けています。また、断熱性能を上げれば間仕切も要りませんし、より自由な空間構成が可能になるのです。

─断熱仕様については、どれくらいの性能を目指せばよいでしょうか。

国が義務化を目指しているZEHは、断熱材の厚さ(グラスウール換算)が屋根で200mm、壁で100mm入れることになっていますが、これで全館暖房にすると年間120~150kWh/㎡かかります。これは、灯油を入れる赤いポリタンク66本分に相当します。そんなにお金がかかるのでは全館暖房はとてもできませんから、これまでのように屋内に寒いところと暖かいところができてしまいます。それでは大して省エネ効果を実感できません。

ところがドイツのパッシブハウスになると、年間の暖房負荷は15kWh/㎡で、ポリタンク6本分です。ほとんど暖房が要らないくらい暖かいということです。断熱性能とひと口にいってもさまざまなグレードがありますが、どこを目指すかは、予算との関係で決めていけばいいと思います。

私は省エネ住宅を手がける際、予算的に可能ならばQ1住宅を目指します。これは新木造住宅技術研究協議会(新住協)が提案している高断熱住宅基準で、Q値がおおむね1となり、年間暖房負荷は50kWh/㎡です。消費エネルギーをかなり抑えられ、暖かさも実感できるレベルです。

─断熱材はどのようなものを使用していますか?

特にこだわりはありませんが、グラスウールを使用することが多いです。ウレタン系、石油系などさまざまな断熱材がありますが、グラスウールはそれなりに長く使われていますし、ガラス繊維のリサイクル品なのでよいかなと思っています。予算が合えば、木質系断熱材も使用します。

─そのほかにお薦めのアイテムはありますか?

これから必要になるのはシミュレーションソフトだと思います。建物の温熱環境は方位と壁や窓、断熱性能によって変わってきますが、シミュレーションソフトは壁と窓のデータを入力すると、太陽の角度によって室内がどのくらいの温度になるかを算出します。一番安いもので3万円くらいからあって、どれくらいの断熱材を入れるとどれくらいの効果が出るのかという相関関係を感覚的に理解するのに効果的です。最近は精度も向上し、暖房負荷の予測もできるので、建築主に費用対効果をきちんと説明するのに大いに役立ちます。

建築知識研究所

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