新国立競技場計画をめぐり揺れる
更新日2015年08月01日
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場。着工予定月の7月が迫った6月5日、槇文彦氏を中心としたグループが代替案を発表した。
同案によれば、今後の物価上昇や難工事などを見込んだ建設費用は2,700億と推定したうえで、当初案から構造形式を変更することで、推定額から1000億円程度減額が可能だという。6月22日には、下村博文文部科学相と槇氏との対談が行われた。下村文科相は、原案を白紙にすることはないものの、2019年9月開催予定のラグビー・ワールドカップまでに建設が可能な代替案は真摯に聞き入れるという旨の意向を示した。しかしその翌日、文部科学省は竹中工務店、大成建設の2社とザハ・ハディド氏の原案に近い計画で契約を結ぶ方針との報道がなされた。予算は、基本計画時の1,625億から約900億増額の2,520億となる。
これらの一連の議論で問題とされているのは、キールアーチと呼ばれる構造物、観客収容能力、開閉式屋根の3点である。キールアーチとは、全長370m、高さ70mほどの屋根を支持する構造物。今後資材と人件費の高騰で特に予算がかさむと予想される部分だ。また、収容人数については、当初は常設で8万人の計画であったが、そこまでの大きな収容能力が必要であるか問題視されており、これまでに一部を仮設とする代案、改修案も多く出されてきた。開閉式屋根についても、現在の日本の気候に耐える性能を本当に実現できるのかどうか疑問視する声がある。これらに関する技術的課題と工期の問題、金銭面での問題が、いずれも解決されないまま今日に至っている。
現在、旧国立競技場は地上部分が完全に解体されており、改修案に戻ることもできない。当初の予定では10月に着工し2019年3月竣工の予定であった。計画をめぐる混乱が収束しないなか、予定どおりに竣工するかの正念場だと言えよう。
MONTHLY NEWS (建築知識2015年8月号)