杭打ちデータ流用問題 住宅分野への影響は?

更新日2016年01月01日

横浜市のマンション杭打ちデータ流用問題では、その後、別の業者もデータを流用していたことが判明するなど、問題の根深さが浮き彫りとなり、波紋が広がっている。

ニュースなどで現在主に指摘されているのは、マンションなどの大規模建築に対する社会不安が中心だが、影響はすでに住宅分野にも及んでいる。東京都内で住宅を専門に手がける設計事務の担当者は、「進行中の現場はもちろん、竣工から数年が経った物件でも、建築主からの問い合わせがあります」と明かす。

そもそも、大規模建築物の杭と住宅の杭とでは工法自体が異なる。マンションなどで主に用いられるのは「支持杭」[※2]と呼ばれるもの。横浜市のマンションで問題となったのもこの支持杭だ。一方、住宅で用いられる杭は「摩擦杭」(柱状改良)[※3]がほとんどで、長さも短いものが多い。そのため今回の問題をそのまま住宅に当てはめることはできないが、摩擦杭でも適切な施工が行われなければ、不同沈下など深刻な事態につながりかねない。

こうした問題を未然に防ぐにはどうすればよいのか。地盤コンサルタントの高安正道氏は「現場監督など管理者がリスクを察知し、適切に対処することが重要」と話す。「住宅の杭はほとんどの現場で設計どおりに施工されていますが、実際に掘削をしてみて初めて分かる問題もあるはず。その際に『設計どおりだから』と1人で判断せず、監理者や専門家の意見を仰いでほしい」(高安氏)。

また一連のデータ流用問題の背景には、杭工事の追加・変更による工期の遅れが許されない風潮が少なからずあった。しかし住宅の場合は杭の本数が少なく、工期への影響も1日程度だ。「あと1m深く打っていれば不同沈下が避けられた」(高安氏)といったケースもあるという。たった1日を惜しんだために深刻な事故が起きてしまっては、泣くに泣けないだろう。今回の問題を契機に、現場の施工管理、設計者の意識向上に期待したい。

※2軟弱地盤を貫通し、深部の強固な地盤まで杭を挿し込んで先端面積で建物を支える工法。鋼管杭やコンクリート杭などが用いられる
※3主に地中の土との摩擦力で建物を支える工法。住宅では、掘削した地盤にセメント系固化材を注入して地中にコラムをつくる「柱状改良」が一般的

MONTHLY NEWS (建築知識2016年1月号)

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