徹底解説[ 省エネ・断熱(住宅編)]岩前篤氏(近畿大学)(3ページ目)
更新日2016年06月07日
- P r o f i l e
- 岩前 篤
- (いわまえ あつし)
- 1961年和歌山県生まれ。
- 1984年神戸大学工学部建築学科卒業、
- 1986年神戸大学大学院工学研究科修士修了、積水ハウス入社。同社試験研究所で、住宅の断熱気密・結露対策・空気環境などの研究に携わる。
- 1995年神戸大学大学院博士課程修了(工学)。
- 2003年近畿大学理工学部建築学科助教授、
- 2009年同教授。
- 2011年同大学建築学部の新設に伴い学部長に就任。
気軽かつローコストな部分的断熱リフォーム
─リフォームによっても住まいの断熱性能を上げることは可能ですか?十分可能です。高断熱の家を新たに建てるよりも、リフォームで断熱性能を上げるほうが、コストも抑えることができます。
また、家全体の断熱リフォームを行うとコストも高くなってしまいますが、必要なスペースにだけ部分的に断熱リフォームを行えば、コストはさらに抑えられます。たとえば高齢者が暮らしている家では、子どもの独立後2階を使っていないケースや、住居の一部だけを使って生活しているケースがよくあります。生活に必要なスペースだけを部分リフォームすれば、コストも手間も負担が軽い。さらに、リフォーム時に1階のリビングを寝室に用途変更するなど、1フロアに生活空間を集約すれば、部分断熱の効果はさらに高まります。
─今後の住宅にはどのような思想が求められていくのでしょうか?かつての日本の戸建住宅は20〜30年で建て替えられるケースがほとんどでした。’90年に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行され、住宅の長寿命化が提唱されています。1軒の家に2代、3代と住み続けることを思えば、建てる人の都合だけを考えて済ますことはできません。性能の低い家を建てることは、次の世代に負の遺産を残す〝エゴ〟だともいえます。
13年には省エネルギー基準も変更され、より高度な性能が建物に求められるようになりました。また、’14年には「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」もスタートしました。これは、高齢者や子育て世代の住まいの安定と、住まいによる健康維持と増進を目的とした政策です。住まいに関する政策に「健康」というキーワードが加わったのは、歴史的転換点だといえるでしょう。
これまでは、高断熱住宅に住む人へのアンケートなどで調査を行ってきましたが、これからは医療の専門家や医療機関とも連携を図り、住まいの性能と健康の関連性を調べるためのより具体的な調査を進めることも必要です。現在、「健康に暮らすことができる家がほしい」という風潮は高まっており、今後さらに、高性能な住まいが求められるようになると考えています。