徹底解説[地盤・基礎]山田憲明氏(山田憲明構造設計事務所)(3ページ目)

更新日2016年06月23日

乾燥や加工条件を見極めて現地調達の無垢材を使用

─住宅と中・大規模木造では耐震構造にも違いがあるのでしょうか?

住宅のスパンは長くて3.6〜5.4m、天井高は高くても3mといったところでしょう。しかし、中・大規模木造の場合のスパンは8〜10mになり、天井高は3.5〜6mもあり得ます。また、吹抜けや大開口のニーズも高くなります。そこで、強い壁を集中的に設けたり、強い床をつくる必要が出てきます。ラーメン構造にして長スパンと開放性を同時に実現する方法もあります。

また、先ほど話したように、木造とRC造といった混構造にして、RC部分に地震力を負担させたり、構造の境目に制振ダンパーを設置したりする方法もあります。ちなみに屋根だけを木造にする構造にすれば、それだけ建物の上部が軽くなるので総RC造より耐震性能を上げることも可能です。

東京都昭島市の昭島すみれ幼稚園の屋根は、 本の鋼材で木造屋根架構を軽快にした例です(事例 ・写真1・2・3)。扇垂木と鉄骨外周梁によるハイブリッド立体トラス構造で、6.8×6.8mの無柱空間を実現しています。

─最後に中・大規模木造をつくる際のアドバイスをお願いします。

中・大規模木造の場合、集成材を採用する設計者が多いと思います。しかし私の場合は、流通材を使うことによる価格面での経済性、住宅で扱い慣れている点での施工性、木の温もりから得られる快適性といった理由で、無垢材を使うことが多くあります。そのため現地で調達できるか、乾燥や加工条件などの見極めが大切になってきます。

また、木造ならではの伝統的な木造技術にも改めて着目すべきでしょう。これは書物から学ぶだけでなく、職人に直接聞くのがよいと思います。優れた職人こそ柔軟な考え方を持っています。以前、木橋復元の構造設計をしたときに、柱と梁の接合部で悩んだことがありました[事例 ]。そこで福井の高名な大工である直井棟梁にひきどっこ引独鈷という木組みの方法を提案していただき、無事完成しました。知恵と知識が確かな職人と密に接していると、意外な方法を教えてもらえることが多々あります。今後、中・大規模木造に取り組まれる設計者の方々は、木の知識を生かしつつ、耐震にも気を配り、質の高い建物をつくってほしいと思います。

事例2昭島すみれ幼稚園(設計:仙田満+環境デザイン研究所)

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1扇垂木と鉄骨、外周梁によるハイブリッド立体トラス構造とした。4〜6mのスギの流通材を主体材としている 2構造を露しにした天井。鉄骨は扇垂木の継手を可能にしている。スパンが8mに及ぶ対角線付近の扇垂木をラグスクリューで吊りつつ、スパンの短い周辺の扇垂木によって座屈留めがなされる仕組み 3ハイサイドライトからの採光が天井の架構と木の質感を強調する。6.8×6.8mの無柱空間としている

図1

図1 ダイヤゴナルアーチと呼ばれる鉄骨部分の圧縮力は、引張となる外周梁と圧縮となる棟木で構成されることで自碇する。力の流れが不連続になりやすいハイサイドライトの突出部は、スギ材で組んだフレーム内に丸鋼を張り安定させている

事例3福井城御廊下橋(設計:国京克巳/建築設計工房)

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4大工との協働による作業により、柱と梁の接合部などに伝統技術を駆使した 5引独鈷という方法により、2つの木材を固定している
岩前 篤
P r o f i l e
山田 憲明
(やまだ のりあき)
  • 1973年東京都生まれ。
    1997年京都大学工学部卒業後、同年増田建築構造事務所入所。同社チーフエンジニアを経て、2012年山田憲明構造設計事務所設立。
    現在、早稲田大学大学院非常勤講師(軽量構造特論)および信州職人学校非常勤講師(木造構造力学)。文部科学省木造校舎の構造設計標準の在り方に関する検討会、国土交通省木促法に伴う木造計画・設計基準検討会WGなど各委員も務める。第1回ものづくり日本大賞(伝統構法による大規模天守の復元技術)や第22回JSCA賞作品賞(国際教養大学図書館棟)、第7回日本構造デザイン賞(東北大学エコラボ)など受賞歴多数。共著に『構造デザインの歩み』(建築技術)、『ラクラク木構造入門』、『構造デザイン入門』(エクスナレッジ)、『構造形態と力学的感性』(日本建築学会)などがある。
建築知識研究所

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