徹底解説[中・大規模 木造建築の省エネ]
仙田満氏(環境デザイン研究所代表)(2ページ目)

更新日2016年07月14日

─図書館や学校の省エネ事例を教えてください。

秋田県秋田市の「国際教養大学の図書館」[事例3]では、寒冷地でかつ24時間利用するという理由から、高い断熱性能が求められました。そこで内断熱と外張り断熱を使い分けることにしたのです。下部の外壁は積もった雪と接しても問題がないようにコンクリートにして内断熱に、上部の外壁は構造の特徴を生かすように木にして断熱性能の高い外張り断熱にしたのです。さらに床下空調を採用し、床全体を温めるようにしています。

ただし、この例は特殊で、大学側からは「室温は均一にしなくてよい」と言われていました。なぜならこの大学は留学生が多く、同じ室温でもモンゴルの人は暑いと感じるが、ケニアの人には寒い、ということがあり得るからです。そこで窓の大きさや床下空調の吹出し口の位置を工夫することで、室内環境に違いが生じるようにして、各国の学生が各自で快適な場所を見つけてもらうようにしました。

─大学の図書館は広いので、照明のランニングコストも大きくなりそうですが、どのような計画をしましたか。

大きな建物の内部をすべて照明設備で明るくしようとすると、イニシャルコストもランニングコストも莫大になります。そのためこの図書館では、天井の周囲すべてにハイサイドライトを設置しました。広い空間では天井付近が明るいと、空間全体を明るく感じるものです。ハイサイドライトで天井付近を明るくし、あとは本が読みやすいように机や本棚に個別の照明を付けました[写真4]。

西側にハイサイドライトを付けるのを嫌がる人もいますが、これだけ高い建物なら西日は床まで届かないので、気になりません。また、開閉可能なので通風も確保できます。つまりハイサイドライトは照明と空調の つの意味で節電に有効なのです。ただし、開閉できるといっても実際に操作してくれないと意味がありません。なかなかしてくれないケースもあるので、そこのところが今後の課題です。

─ハイサイドライトは「緑の詩保育園」でも採用されています。

このケースでは明るさの確保のほかに、一般流通材利用によるコストダウンという狙いがありました。保育園のホールは、一般流通材を2段に組み合わせて梁として、約17mの無柱空間を実現し、梁の間にハイサイドライトを設けました。最上部にもハイサイドライトがありますが、これは採光・通風のほかに、保育園に必須の排煙口という用途もあります[写真1]。

─中・大規模木造建築と住宅の省エネ設計で、異なる点はありますか?

大きな違いはありません。住宅はあらゆる建築の基本です。住宅の省エネ基準のレベルは、ほかの建物よりも進んでいるのが実状です。住宅と中・大規模木造建築では、省エネに関する届出内容が異なりますが、住宅の省エネ設計ができれば困ることはないはずです。

それよりも、問題を感じていることがあります。本来、木造建築というものは通風や採光を優先することで建物内の湿度などを適正に保ち、耐久性を確保しているのに、中・大規模木造建築の省エネ基準はこれとトレードオフの関係にある断熱材の厚さばかりを見ていることです。

この矛盾を解消するには、さらに中・大規模木造建築が増えて、社会にも行政機関にもこの建物のことをよく理解してもらう必要があるのではないでしょうか。それには中・大規模木造建築を設計できる建築士が、より増えなければなりません。

私は、若い時に木造住宅を数多く設計しました。住宅は設計の基本です。コストダウンのために流通材のほか、照明やサッシも住宅用の製品を積極的に利用します。保育園・幼稚園では、できるだけ住宅用サッシを利用し、納まりも工夫します。国際教養大学の講義棟では、カーテンウォールに見えるところの過半数は、一般的なサッシを組み合わせました。このように、住宅設計の経験は十分に役に立ちます。

事例3国際教養大学

国際教養大学 国際教養大学 44半円形からなる木造の図書館。ハイサイドライトから光を採り込み、天井面を照らしている。24時間利用可能で、国際色豊かな学生たちが書籍の閲覧だけでなく、学習室としても利用する 5テーマに合った書籍の近くで本を閲覧し、レポートを作成できるように、閲覧机を書架と並行させて用意した
仙田 満
P r o f i l e
仙田 満
(せんだ みつる)
  • 1941年神奈川県生まれ。
    東京工業大学建築学科卒業後、1964年菊竹清訓建築設計事務所に入所。
    1968年環境デザイン研究所を創設。日本建築会会賞、日本建築家協会賞、村野藤吾賞など受賞多数。40年以上にわたって子どものための環境教育施設、博物館などのさまざまな領域において、総合的なデザインに取り組んでいる。
    2001年日本建築学会会長
    2005年に東京工業大学名誉教授
    2006年日本建築家協会会長
    2007〜2012年放送大学教授
建築知識研究所

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