「IRIYA APARTMENT」設計:イン・ハウス建築計画
更新日2017年01月01日
2016年11月26日~27日、築40年のRC造5階建てオフィスビルを集合住宅へとコンバージョン[※]した「IRIYAAPARTMENT」の内覧会が開催された。
「現地調査は面積を測るところから始めました」というのはイン・ハウス建築計画の中西ヒロツグ氏。設計は、既存の設計図書や検査済証がない状態からのスタートだったという。台帳の記載事項調査を始め、既存建築物の現況を調べるための実測調査、面積表の復元、建物強度の調査、確認検査機関との協議や建築時の基準法への法適合調査など、基本設計に至るまでの工程の多さは驚くばかりだ
基本・実施設計時にもコンバージョン特有の制限が付き纏った。たとえば、既存躯体による室内高さの制限。本物件の1階は吹抜けを有する駐車場として利用されていた。吹抜け部分を除く天井高は1,900㎜と低く、居室には適さない。そこで中西氏は吹抜けの一部にユニットバスと収納を組み合わせた水廻りボックスを設置。その上部を床面積に含まれないロフトとして、2階寝室と吹抜けが違和感なくつながる空間に設えた。このほか、空間の意匠性を損なわないように避難器具を設置したり、既存不適格箇所を現行法に適合させたりと、直面した課題は多い。消防や確認検査機関との協議を重ね、設計の微調整を繰り返して、調査開始から約1年もの歳月をかけて本物件は竣工を迎えた。
建築家は、完成した建築物・空間のみで評価されがちである。しかし、その作品の裏に潜むこうした地道かつ緻密なプロセスも、評価されるべきことなのではないだろうか。
※ 既存建築物の用途を変更して、再利用すること左:最上階居室を見る。天井は、既存下地の木毛セメント板に塗装を施し、素材感を生かした仕上がりに。天井の傾斜は建築当時の斜線制限を再発見するヒントになった|右:1階吹抜け部分。水廻りボックスは、木目が特徴的なラーチ合板をサンダーがけし、ウレタン塗装を施した