建築物省エネ法マニュアル 第1回
「建築物省エネ法」の全体像を把握する

更新日2017年08月07日

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国内のエネルギー消費量の推移を見ると、産業や運輸部門で減少している一方、建築物部門では著しく増加している。このことから、建築物部門における省エネルギー対策の強化が必要不可欠となり、2015年7月8日に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が新たに制定された。「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(現行省エネ法)」のなかから、建築物に係る部分である「省エネ措置の届出」[※1]や、「住宅トップランナー制度」[※2]などは、新しく制定された建築物省エネ法に移行する。さらに、「一定規模以上の住宅以外の建築物に対する適合義務」「特殊な構造、設備等に対する大臣認定」「性能向上計画認定、容積率特例」「基準適合認定、表示」などの制度が新たに設けられた。

省エネ基準の適合性判定は建築確認の手続きと連動

建築物省エネ法には、大きく分けて「規制措置」と「誘導措置」の2つが定められている。規制措置とは義務規定であり、「基準適合義務」や「届出」「住宅トップランナー制度」などがこれに該当する。誘導措置には、「性能向上計画認定」「省エネに関する表示制度」などがあり、いずれも任意の制度となっている。規制措置は、’17年4月1日の施行であるが、誘導措置については、既に’16年4月1日に施行されている。

規制措置の対象となるのは、一定規模以上の建築物の新築や増改築。たとえば、住宅以外の建築物(非住宅)で2千㎡以上の建築物を新築する場合には、適合義務の対象となる。所管行政庁または登録省エネ判定機関に「建築物エネルギー消費性能確保計画」を提出して、「建築物エネルギー消費性能適合性判定」を受け、「省エネ基準に適合している旨の通知書(省エネ適合判定通知書)」の交付を受ける。この交付がなければ、基準法の確認済証の交付を受けることができない。また、300㎡以上の建築物について新築などを行う場合には、「届出」が必要となる。現行省エネ法においても同様の「届出」義務があるが、建築物省エネ法では、基準に適合せず必要と認められる場合は、所管行政庁より計画の変更の指示、命令等が出されるなど規制が強化された[図1・3]。

誘導措置の対象は、すべての建築物だ。たとえば、省エネ性能の向上に資する新築などに対して、その計画が一定の誘導基準に適合している場合は、計画の認定(性能向上計画認定)を所管行政庁より受けることができる。性能向上計画認定を取得すると、一定の範囲内での容積率の特例を受けることもできる。このほか、既存建築物について、省エネ基準に適合していることを所管行政庁に申請し、認定を受けることもできる。この認定を受けると、その建築物の広告や契約書などに「基準適合認定表示」(eマーク)を表示することが可能になる[図2・4]。

建築物省エネ法は2つの基準で評価する

住宅用途に係る評価には、「外皮性能」と「一次エネルギー消費量」の2つの基準を用いる。外皮性能は、住宅の窓や外壁など建築物の外皮性能について、外皮平均熱貫流率や冷房期の平均日射熱取得率が一定基準以下であることを確認することで評価する。一次エネルギー消費量は、設備機器などの一次エネルギー消費量について、暖房・冷房・換気・照明・給湯・そのほかの家電などの一次エネルギー消費量の合計値が、基準一次エネルギー消費量を超えないことを確認することで評価する。非住宅でも基本的な考え方は同じだが、省エネ適合性判定や届出では、「外皮性能」の基準が適用されないという違いがある。

誘導基準である性能向上計画認定などでも同様の評価方法が用いられるが、一次エネルギー消費量では、適合義務などで求められる性能よりも高い性能が求められることになる。住宅事業主基準(住宅トップランナー制度)でも同様である。

すでに誘導措置の部分が施行されている建築物省エネ法は、’17年4月1日に残りの規制措置が施行される。規制措置の省エネ基準適合義務により、規制対象の建築物は、省エネ適合性判定通知書の取得が建築確認申請手続きの流れに影響を及ぼすことになる。また、その通知書を取得した建築物の完了検査時には、省エネ性能確保計画にかかわる部分も検査の対象となり、建築物エネルギー消費性能基準に適合していない場合は、建築物の検査済証が交付されないこととなるなど影響が大きいので注意が必要だ。

※1 300㎡以上の建築物の新築等における届出制度
※2 住宅事業主が供給する建売戸建住宅に関する省エネ性能の基準

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今年4月に規制措置が施行。計画建物が規制対象ではないかを確認しましょう。次回からは、「建築物省エネ法」をさらに詳しく解説します。

ビューローベリタスジャパン 渡邊仁士
2005年ビューローベリタスジャパン入社。建築確認審査部技術課

建築物省エネ法マニュアル(建築知識2017年3月号)

建築知識研究所

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