建築物省エネ法マニュアル 第4回
規制措置の手続き準備 新築の対象範囲をマスター
更新日2017年11月07日
2017年4月1日に施行された建築物省エネ法の「規制措置」では、「届出義務」と「省エネ基準適合義務」が規定された。今回は、新築する建築物における「規制措置」の対象範囲について解説する。
届出義務・省エネ基準適合義務対象範囲を正確に把握する手続きを始めるにあたっては、まず初めに、対象の要否の判断を正確に行う必要がある。「省エネ基準適合義務」の対象となるのは、非住宅部分の床面積の合計が2千m²以上の新築だ。また、「届出義務」の対象となるのは、適合義務(適合性判定)の対象に該当するものを除く300m²以上の建築物の新築である。なお、300m²未満の場合は、「努力義務」となるものの、適合義務や届出義務の手続きは不要だ[※1]。
「住宅部分」とは令3条に定義されており[※2]、「非住宅」とは「住宅部分」以外の部分である。共同住宅では、共用の廊下など居住者が共用する部分も住宅部分として扱われる。しかし、住宅部分と非住宅部分が複合する建築物の共用部分にあっては、住宅部分に対する非住宅部分の割合で判断される。具体的には、居住者および居住者以外の者が利用する共用部分であって、居住者以外の者のみが利用する部分(非住宅部分)の床面積の合計が、居住者のみが利用する部分(住宅部分)の床面積の合計より大きい建築物の場合は、当該共用部分は非住宅部分として扱われる。
また、適合義務(適合性判定)または届出義務の適用を除外する建築物は、同法18条に定められている[※3]。これに該当する建築物の用途例については第3回でも挙げているが、この規制措置の適用除外となるのは、建築物の全体がこれらの用途に該当する場合のみとされているので、注意が必要だ。建築物の一部が適用除外に該当するような複合用途の建築物の場合は、適用除外とならない。建築物の用途は、確認申請書(第四面)に記載される用途が判断の1つとなる。
たとえば、居室を有しないことにより空気調和設備を設ける必要がない用途として「自動車車庫」が例示されている。小規模な管理人室等を有する自動車車庫についても、建築物全体が自動車車庫と判断できる場合は適用除外の建築物として扱われる。ただし、自動車車庫と事務所の複合用途となる建築物などについては、適用除外の対象とならない。この場合は、事務所部分と自動車車庫部分のすべてが算定の対象となる。
なお「畜舎」と「堆肥舎」の複合建築物のように、「居室を有さず、かつ、空気調和設備を設ける必要がないもの」として適用の除外となる用途のみで複合している場合は、適用除外の対象として扱うことができる。
また、「高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がないもの」として、「スポーツの練習場等」が例示されている。これは、壁を有しない、または内部に間仕切壁等を有しない建築物などで、常時外気に開放された部分の面積の合計が床面積の1/20以上であるもののみで構成された建築物であることが該当の条件だ[図1]。
規模の算定では開放部分を除いて床面積を合計する令4条で定められている適合義務(適合性判定)や届出義務の対象とする床面積の合計(2千m²、300m²)は、「開放部分(高い開放性を有する部分)」を除いた部分とされている。この「開放部分」とは、内部に間仕切壁等を有しない階またはその一部であって、常時外気に開放された開口部の部分が床面積の1/20以上である部分だ[図2・3]。また、開口部には、当該開口部を閉鎖するための建具が設置されていないことが条件となるので注意したい。そのため、通常利用時は開放されていたとしても閉鎖が可能なシャッター等は開放部分に設置できない。ただし、リングシャッター等は部分的に外気に開放された部分を開口部として算定することも考えられるため、提出先に相談されたい。
一方、開放部分を除いた面積が一定以上(2千m²、300m²)の場合は、適合義務(適合性判定)や届出義務の対象建築物となる。開放部分を含む建築物であっても、適合義務(適合性判定)又は届出義務の対象となった場合は、開放部分も含み適合義務等の対象部分となる。開放部分は、あくまでも適合義務の対象の要否を判断する場合にのみ考慮されるものであって、一次エネルギー消費量計算の対象外となるわけではない。開放部分に設けられた照明設備などがある場合、一次エネルギー消費量計算対象の設備となる。
※1 建売戸建住宅を供給する住宅事業建築主に係る住宅事業主制度(住宅トップランナー制度)は、建築物省エネ法においても措置される※2 令3条の抜粋①居間、食事室、寝室その他の居住のために継続的に使用する室 ②台所、浴室、便所、洗面所、廊下、玄関、階段、物置その他これらに類する建築物の部分であって、居住者の専用に供するもの ③集会室、娯楽室、浴室、便所、洗面所、廊下、玄関、階段、昇降機、倉庫、自動車車庫、自転車駐車場、管理人室、機械室、その他これらに類する建築物の部分で居住者の用に供するもの
※3 法18条①居室を有しないこと又は高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がないもの ②法令又は条例の定める現状変更の規制及び保存のための措置その他の措置が取られていることにより建築物エネルギー消費性能基準に適合させることが困難なものとして政令で定める建築物 ③仮設の建築物であって政令で定めるもの
開放部分を含む建築物であっても、適合義務または届出義務の対象となった場合は、開放部分も適合義務等の対象に含まれます
ビューローベリタスジャパン 渡邊仁士
2005年ビューローベリタスジャパン入社。建築確認審査部技術課
建築物省エネ法マニュアル(建築知識2017年6月号)