徹底解説 [ 屋根 ] 彦根アンドレア氏(彦根建築設計事務所)

更新日2015年09月28日

美しい屋根のつくり方

徹底解説 屋根 彦根アンドレア氏(彦根建築設事務所)

形状や勾配、素材によって、
外観の印象を大きく左右する屋根。
いかに街並みと調和させるかや軒天井の見せ方、
雨樋のデザインなども設計者の腕の見せどころである。
外観を美しく見せつつ、なおかつ内部にも
豊かな空間を生み出す屋根のつくり方について、
建築家・彦根アンドレア氏に聞いた。

取材・文=松浦美紀 人物撮影=石井真弓

屋根や外壁、軒天井を同じ素材にして統一感を出す

─屋根の勾配や素材はどのように決めているのでしょうか。

屋根に求められる機能の中で、大切なポイントの一つは水が漏れないということです。屋根は形状によって素材と防水方法が決まってきます。屋根と外壁に同じガルバリウム鋼板を使用してデザインし、外観に一体感を持たせてすっきりと見せることも多くあります。

陸屋根など勾配が緩いケースでは、防水性の高いシート防水を利用します。しっかりとした勾配があるデザインの場合は、瓦などそのほかの素材も検討します。

─屋根のデザインを決めるうえで、防水性能以外に重視することはありますか。

屋根面が見えない場合には、見上げた際に美しく見える形を考えます。反対に、建物が遠方からも見える場合や斜面に建っている場合は、屋根のデザインが外観デザインの要になるので、素材に気を使います。瓦などを用い、屋根を美しく見せることがあります。

街中にある場合、周囲の住宅のプロポーションに合わせて屋根の形状を含めた外観をデザインすることも多くあります。

また、屋根は軒天井も重要です。美しく見せるためにはどんな素材を使用したらよいか、を考えます。バルコニーの裏側も同様です。たとえば、屋根や外壁が黒いガルバニウム鋼板で、軒天井を目立たせたくない場合は、同じ素材を用います。

─そのほか屋根のデザインで注意すべき点はありますか。

水切はできるだけ薄く、すっきりさせたいと考える人が多いようですが、ただ薄くすればよいというものではありません。建物全体のバランスを取ることが重要です。私は大学時代に、先生から“材料には正しい寸法がある”と教えられました。防水の観点などから、水切は水切として妥当な寸法があります。けらばを目立たせなくする方法として、素材や色を外壁と合わせることもあります[写真1・2]。

─雨樋については、どうすべきとお考えですか。

建物の立つ敷地の大きさや形状と地域などによって、雨水、雪、つららにどう対処するかを考えます。たとえば軽井沢の別荘では敷地にゆとりがあったので、雨樋を設けずに屋根に傾斜をつけて、そのまま雨や雪を落とします。必ず雨樋を付けなければいけない、ということではないのです。軽井沢のような場所では落ち葉が詰まったり、雪が積もったりするおそれがあるので、むしろ雨樋のないデザインにすることでメンテナンスの軽減を考えるべきでしょう。

もちろん、雨樋が必要になる場合もあります。玄関を開けたら雨がバシャバシャ入ってくるような場合は樋が必要です。設置する竪樋は、外壁と同じ素材を用いる、窓枠と色をそろえるなどの工夫で、できるだけ目立たなくなるようにします[写真3]。ガルバリウム鋼板など、屋根材や外壁材と同じ素材でつくってもらうこともあります。逆に、竪樋に合わせて外壁をデザインすることもあります。

─竪樋が目立ってしまうと、外観デザインが台なしになってしまうこともありますね。

1本だと、どうしても格好がよくないので、2本にしたり3本にしたりと、バランスを取りながらセットにして配置します[写真3・4]。また、バルコニーからの転落を防止する手摺を兼ねるなど、別の機能をもたせることで、雨樋としての存在が気にならないようにする工夫もあります。白い壁にあえて黒く塗った雨樋を設置するなど、目立たなくするのではなく、デザインのアクセントとして見せてしまう方法もよいでしょう。

よく“雨樋は建築か、設備か”という話になることがありますが、設備と捉えるとどうしても格好が悪くなってしまうので、建築としてどうデザインするかを考えたほうがよいのではないでしょうか。

─ほかに雨樋を設ける際の注意点はありますか。

内樋には注意が必要です。落ち葉などが詰まりやすいうえに、大雨のときにあふれてしまう危険があります。意匠的な配慮から内樋を選択するケースも多いと思いますが、雨漏りの原因にもなりやすいので、雨仕舞いには十分注意しなければなりません。

─傾斜屋根の場合は、軒天井がそのまま内部空間につながっていくこともありますね。

傾斜屋根は、傾斜によって内部の高さが変わりますので、中からどう見えるかも大切になってきます。勾配をきつくして高い部分をつくると開放感を表現できますし、勾配を緩くして高さを抑えると落ち着いた雰囲気になります。傾斜によって陽光の入り方も変わってきます。傾斜屋根は空間を豊かにする大きなデザイン装置となり得るのです。

写真104けらばと竪樋のデザイン

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1.外壁と屋根にガルバリウム鋼板を使用。水切を薄くすることで、すっきりとした印象に仕上がっており、格子戸を使った開口部の印象的なデザインを引き立てている 2.1と同じく外壁と屋根にガルバリウム鋼板を使用した住宅。素材と色を統一したことで、けらばの厚みが気にならない。屋根に傾斜をつけて雨水を落とし、雨樋をなくしてメンテナンスフリーとしている 3.外壁、屋根だけでなく、庇もガルバリウム鋼板で仕上げた住宅。バルコニーの庇からの雨水を落とすために、玄関の右手に細い雨樋を2本設置。隣地への水はねも防いでいる 4.写真3の住宅では、ガス管を2本セットにすることで、竪樋に見えないようにデザイン。2本の竪樋は子どもでも通り抜けられない幅に設置されており、バルコニーからの転落防止も兼ねている
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