徹底解説 [ 省エネ住宅 ] 松尾和也氏(松尾設計室)

更新日2016年01月22日

欧州基準を見据えた省エネ住宅の設計手法

徹底解説 [ 省エネ住宅 ] 松尾和也氏(松尾設計室)

2012年12月に低炭素住宅認定制度がスタートし、2013年10月には改正省エネ基準が施行された。スマートハウスなど省エネ住宅に対する 注目度も高まっている。
実際、省エネ住宅とはどれくらいエネルギー消費量を抑えられ、快適なのか。また、どのような仕様にすれば実現できるのか。海外の最先端省エネ住宅にも精通する松尾和也氏に聞いた。

取材・文=椎名前太 人物撮影=石井真弓
─省エネ住宅を多く設計されている松尾さんは、どのような基準で省エネ住宅をお考えですか?

夏も冬も無理をしないで快適に生活できるレベルの住宅です。たとえば夏なら窓を開けていればエアコンなしで過ごせる。冬なら室温20℃前後をキープして、シャツにフリースを羽織る程度です。エアコンを使用したとしても、冷暖房費は普段の5000円アップ程度に抑えられる家だと考えています。

─そのためには、建築的にどの程度の性能が必要ですか?

最低でもトップランナー基準はクリアしたいですね。改正省エネ基準の6地域のQ値[※1]でいえば1.9です。

ただし、Q値ばかりを追いかけても省エネ住宅になるとは限りません。注目すべきは「一次エネルギー消費量」と「年間暖房負荷」です。一次エネルギー消費量とは、冷暖房や給湯、照明などの家全体のエネルギー消費に太陽光発電システムなどの創エネを差し引いた値です。年間暖房負荷とは、期間中に設定温度に保つために必要な熱エネルギー量の値です。この値が少ないほど、エアコンを使用しなくても暖かくて快適な家ということになります。年間暖房負荷は、Q値、C値[※2]、日射熱取得量の3大要素で決まります。暖かい家というと断熱性、つまりQ値ばかりクローズアップされがちですが、一番大事なのは日射熱取得量です。たとえば真冬でも黒い服を着て陽だまりにいると暖かいですよね。かなり大雑把ですが、重要度の割合はQ値が4、C値が1、日射熱取得量が5くらいだと考えています。

欧州と比較し低い日本住宅の省エネ性能

─最低でもトップランナー基準ということは、昨年施行された改正省エネ基準や低炭素住宅認定制度のレベルでは足りないということですね。

改正省エネ基準や低炭素住宅の基準が、省エネ先進国であるドイツのパッシブハウス基準やスイスのミネルギーP基準と比べてどうなのか分析してみました。それぞれの一次エネルギー消費量と年間暖房負荷で比較したのですが[※3]、その結果は[表]の通りです。日本の場合、実はトップランナー基準相当でも足りているとはいえません。

しかも、ドイツの一次エネルギー消費量25 kwh/㎡年は、2015年にはEUの義務基準になることが決定しています。一方で日本は’20 年までに97 kwh/㎡年の改正省エネ基準を義務化しようとしているレベルです。

日本では基準を設定する際、「現状のレベルがこれくらいだから、このレベルに引き上げよう」と考えます。一方、ドイツは寒くて快適ではない家を建てると裁判で負ける可能性すらある国です。その上で国内の資源やCO2の必要削減量から逆算して基準を設定しています。そもそも基準を考える際の哲学が違います。
※1:Q値とは、熱損失係数のこと。単位はW/㎡k。住宅の断熱性能を数値的に表し、値が小さいほど断熱性能が高い
※2:C値とは、隙間相当面積のこと。単位は3/㎡。住宅の気密性を数値的に表し、値が小さいほど気密性が高い
※3 スイスは冷房を考慮しないなど国によって指標が異なるので、独自の計算方法(エアコン暖房と換気の合計)で同条件にしている

一次エネルギー消費量と年間暖房負荷の日本と欧州(ドイツ・フランス)との比較

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建築知識研究所

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