徹底解説[中・大規模木造建築 ]山田憲明氏
(山田憲明構造設計事務所)

更新日2017年02月16日

木と鉄の組み合わせで合理的で美しい空間をつくる

徹底解説[中・大規模木造建築]山田 憲明氏 山田憲明構造設計事務所

中規模・大規模の木造建築物が増えつつある。背景には「公共建築物等木材利用促進法」などによる国の後押し、また関連技術の開発・普及などもある。しかし、中・大規模の木造建築で大空間を設けるには、構造上の注意点も多い。中・大規模の木造建築の構造設計を数多く手がける山田憲明氏(山田憲明構造設計事務所)に、材料選定や組み合わせ方などを聞いた。

取材・文=加藤純 写真=岡田尚子

中・大規模の木造建築の構造は入手できる最適な材料で考える

─中・大規模の木造建築、建築件数は増えているのでしょうか?

私の構造設計事務所への依頼状況から考えると、全体的には増加傾向にあると思います。特に学校や庁舎など中・大規模の公共建築物のコンペやプロポーザル案件では、RC造や鉄骨造に代わり、主体構造をなるべく木造で計画する場合が増えています。幼保施設や老人福祉施設など、民間の案件でも木造建築の要望は多くなっています。建築基準法上、耐火や防火の条件が緩やかな平屋や2階建ての低層の建物に限られるため、敷地にゆとりがある地方に多いですね。

─中・大規模の木造建築を設計するうえで構造上の課題は、どのようなところにありますか?

一般的に中・大規模の建物では、大空間が求められることが多いです。木造建築で大きくスパンを飛ばしたい、天井高を高くしたい、壁を少なくして開放的にしたい場合には、どの木材を選び、どう組み合わせて、どのように見せるかなど、いろいろなことに配慮しながら検討する必要があります。

たとえばスパンを飛ばすには、流通している木材の長さは6m程度までなので、長い大断面集成材を特注する、木造トラスを組んで梁にする、木材と鋼材を組み合わせるなどの方法が求められます。天井を高くする場合は柱が圧縮力で座屈しやすくなるとともに、風などで面外方向に大きくたわみやすくなるので、柱の断面を太くする、中間高さに座屈留めをするなどの対応が必要になります。また、壁を少なくしたい場合は、ブレースなどで透過性のある耐震要素をつくる、耐震壁を高強度にして壁量を少なくする、RC造などのコアに木造部分の水平力を負担させるなどの方法があります。

住宅とは異なるスケールの空間になるので、目指す空間イメージを建築家と共有し、それに沿う構造の提案をするよう心掛けています。

─材料の組み合わせ方、見せ方を挙げられましたが、構造計画は何から考えますか?

実際には全体を同時に考えていきますが、材料の選択は重要です。プロジェクトの性質や地域の条件によって、どんな材料を使うかを意匠設計者と話し合うことから始めるケースが多いですね。たとえば計画地では流通材だけでなく、地域元産の太くて長いスギが調達しやすいなど、木材の入手には地域ごとの生産環境が大きく影響します。材料選択の方針が定まると、その材料をメインにどのように空間を構築するかを考えていきます。木材の場合、一定以上のスパンを飛ばすには何かしらの接合が必要ですが、接合部は空間全体の雰囲気を左右する大切な要素です。接合部は力がかからない位置に設け、美しく見えるように納まりを工夫し、さらに施工が難しくないように配慮しています。

─事例から木材と鋼材の組み合わせ方を教えていただけますか?

[事例1]は木材と鋼材を組み合わせた梁を露しにして、意匠的に見せている例です。鋼材のフラットバーを両側から厚30mm×幅210mmのLVL材でサンドイッチし、約5.4mのスパンを飛ばしています。

鋼材のフラットバーだけでは座屈しやすく、木材だけでは梁成がもっと必要になるところを、木と鉄を組み合わせることでお互いの短所を補い合い、意匠性も高めました。柱と梁は木と鉄など異種素材を組み合わせると納め方が難しくなりますが、木材どうしで接合できるため、施工も簡単です。

事例1 「緩斜面の家」(意匠設計=リオタデザイン 関本竜太)写真=新澤一平

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1建物外観。片流れの屋根で開口部の高さを低く抑えることで、水平方向が強調され安定感のある外観となっている 2長さが約5.5mの化粧梁の木質ハイブリッド梁を連続させることで、軽快な表現としている
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