徹底解説[ 断熱 ]前 真之氏(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授)

更新日2014年12月01日

コストを抑えて快適な温熱環境をつくる方法

徹底解説[断熱]前 真之氏(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授)

「こんなに寒いとは思わなかった」。
住宅を建てた多くの建築主から聞く言葉だ。
建築主にWebで行ったアンケート調査で、多くの新築住宅において、期待されているほどの断熱性能が達成されていない現実が浮き彫りとなった。どうすれば十分な断熱性能が実現できるのか。空調・通風・給湯・自然光利用などの幅広い研究を通し、真のエコハウスの姿を追い求める東京大学大学院の准教授・前真之氏に話を聞いた。

取材・文=椎名前太 人物撮影=石井真弓
─住宅性能に関するアンケート調査を行ったと聞きました。

先日、過去5年間に1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で家を新築した人を対象に、住宅性能に対する満足度を尋ねた調査を行いました。結果は、地場工務店で建てた建築主と大手ハウスメーカーで建てた建築主に分けて出しているのですが、今回はおもに前者についての話をしたいと思います。

─アンケートの結果、家を新築した人の多くが断熱性能に満足していないそうですね。

耐震や耐火、断熱など16項目の住宅性能に対して、家づくりの段階ごとに、重視する項目がどのように変化したかという調査をしました。具体的には、「初期に重視していた性能」「設計者から提案された性能」「最終的に重視した性能」「性能に対する満足度」について、家づくりの各段階でどんな性能を重視していたのかと、実際に住み始めてからの感想を聞いたのです[図1]。

地場工務店依頼者へのアンケートでは、「初期に重視していた性能」では、室内温熱環境つまり断熱性能は、間取り、耐震に続く3位でした。次の「設計者から提案された性能」では5位に下がり、「最終的に重視した性能」では4位に落ち着きます。ここで建築主は設計者よりも温熱環境を重要視していることが分かります。ところが住んでからの「性能に対する満足度」では残念ながら11位に急落しました。同様に、省エネ性能も15位になり、不満足という結果になりました。これば、電気代を負担に感じているということを意味しているでしょう。  [図2]は、電気代の負担感に関する調査結果です。「非常に高い」をプラス2、「まったく高くない」をマイナス2とした場合の集計の平均値です。昔の住まいの時と同様に新築時はやや高いと感じている人が多く、現在はさらに高いと感じる度合いが上がっています。昔の住まいは断熱性能が高くないので電気代が若干高いと感じているのは当然でしょう。しかし、新築に住み替えても「期待していたほど電気代が減っていない」という実感が回答に表れています。さらに最近では電気の単価も上がる傾向にありますから、負担が大きいと感じている人が増えています。特に太陽光発電システムの採用率が低かった地場工務店依頼者の負担感は高くなっています。

このように家を新築した人の多くは、温熱環境と電気代の節約という側面で、検討段階の期待に反して満足していないことが分かりました。

─地場工務店に依頼する建築主の特徴を教えてください。

回答者のうち地場工務店で建てた建築主は平均年齢が43・4歳。大手ハウスメーカーで建てた建築主の平均年齢は46・4歳でした。地場工務店依頼者の7割は子連れ世帯です。また、平均年収は大手ハウスメーカー依頼者よりも約100万円低く、600万円以下の世帯が3分の2を占めます。この割合は大手ハウスメーカー依頼者の2倍。比較的若く、子どもがいて、年収は600万円以下。地場工務店で建てる建築主の場合、太陽光発電システムなど高額な省エネ設備を勧めても受け入れてもらうのは困難でしょう。ならば、より安価で快適さを得られる断熱性能のアップを提案すべきではないでしょうか。

図1性能に対する選好の推移 地場工務店依頼者

1

図2電気代を負担に感じているか? 設計依頼先別

(+2非常に高い~−2全く高くない) 2 地場工務店依頼者は、現在の電気代に負担を感じていることが分かる。大手ハウスメーカー依頼者の場合、太陽光発電の採用率が47%と高かったため、電気代に負担を感じている人は少ないという結果となった(地場工務店依頼者の太陽光発電の採用率は16%)
建築知識研究所

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