徹底解説[ 断熱 ]前 真之氏(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授)(2ページ目) 更新日2014年12月01日 断熱にコストをかけて費用対効果を上げる ─太陽光発電システムの採用率は実際にどのようになっていますか? 今回の調査では依頼者の約27%が太陽光発電システムを採用しています。太陽光発電は今まで買取り制度が充実していたので、採用率が伸び続けてきました。しかし、北海道、東北、四国、九州、沖縄の電力5社は、9月30日までに太陽光発電の全量買取り(10 kw以上)の新規受付けを中断することを発表しています[※1]。買取りの申請が急増し、これ以上契約が増えると送電線の能力が足りなくなり、停電などのトラブルを起こす可能性があるからです。この状況が続くと仮定すると、今後は10 kw未満についても、買取り価格を大幅に下げるなど制度を変更せざるを得ないでしょう。そうなれば、太陽光発電への過度な期待は今後難しくなってくると思います。光熱費を抑えるためには、断熱性能をアップさせるほうがよい。太陽光発電の採用と断熱性能を高めた場合の費用対効果を比較すると、今後は断熱のほうが有利になることが考えられます。※1:九州電力は10月21日より、接続申込みへの回答を一部再開している ─コストを考えると、断熱性向上に対して抵抗を感じる建築主がいるようです。 住宅の坪単価ごとの仕様の違いを調べてみると、おもな違いは手間のかかる塗り壁などの内装や、造作、システムキッチンの面材の見た目など、意匠性に関するものばかりでした。坪単価が上がっても住宅の基本性能はほとんど変わらないのです。住み心地のよい家にするには、見た目よりも快適性を追求すべきなのですが。 建築主だけでなく設計する側も、断熱性能の向上は非常にコストがかかると考える傾向があるようです。しかし実際はそうでもありません。ある北海道の住宅会社では、約30坪、Q値(熱損失係数)[※2]1.0の家を768万円で販売しています。坪単価は約25万円です。低コストの住宅でも高断熱は努力すればできるはず。たとえば35坪から40坪の建物なら、おそらく1棟当たり数十万円程度のコストアップでかなりハイグレードな断熱性能を確保できるはずです。快適性まで考えれば、やはり断熱性をアップさせることのコストパフォーマンスは悪くないと思います。※2:Q値とは、熱損失係数のこと。単位はW/㎡・K。住宅の断熱性能を数値的に表し、値が小さいほど断熱性能が低い ─数十万円のコストアップでどの程度の断熱性能が期待できるのでしょうか? Q値でいえば2.0、U値(熱貫流率)[※3]でいえば0.6は期待できると思います[図3]。このくらいの数値までならば、充填断熱と外張り断熱のいずれか片方でも実現可能で、コストもそれほどかかりません。しかも断熱性の高さを十分実感できるはずです。 2020年には改正省エネ基準が義務化されます。それに向けて今から高断熱住宅の設計に慣れておいたほうがよいのではないでしょうか。※3:U値とは、熱貫流率のこと。単位はW/㎡・K。住宅の熱の伝わりやすさを数値的に表し、値が小さいほど熱が伝わりにくい ─断熱性能をアップさせるうえで断熱材の選択は重視すべきでしょうか? 希望する断熱性能が得られるならば、どの種類の断熱材を使用してもよいと思います。ただし、グラスウールなど繊維系は安価ですが隙間なく充填する施工技術が必要です。ウレタンフォームなど発泡プラスチック系はパネル状なので隙間はできにくいのですが比較的高価です。それぞれの特徴をよく理解したうえで、最終的には「施工する側が得意な素材」を選べばよいでしょう。 ─断熱性だけでなく気密性も重視すべきですか? 建築に携わるプロのなかにも「断熱性は重視すべきだが、気密性はそうでもない」と考える人がいるようです。しかし私はそうは思いません。いくら高断熱にしても、気密性を高めなければ給排気を制御できないので、せっかく温めた空気が出ていくばかりで快適な室温を維持できなくなる可能性があります[図4]。断熱性能と気密性の向上はワンセットと考えるべきです。最低でもC値(相当隙間面積)[※4]2.0以下、なるべく1.0以下にしたいところです。ただし、気密性を上げる際にきちんと換気計画をしないと、空気の密度が高くなることで建具が開きづらいといったことも出てきますので、換気計画も大切です。※4:C値とは、隙間相当面積のこと。単位は㎠/㎡。住宅の気密性を数値的に表し、値が小さいほど気密性が高い 図3平成25年省エネ基準※平成11年省エネ基準のⅠ地域、Ⅳ地域を2つに細分化 図4気密の低い家 気密性の低い家のサーモグラフィ。温まった空気が開口部などから逃げて、冷たい空気が常に下から侵入してくるため、いくら暖房しても器具の回りのみ温まって、空気が温まらない 次のページ 断熱性能を最も左右する開口部 1 2 3 この記事は会員限定です。会員登録後、ログインするとお読みいただけます。 一覧へ戻る 他のカテゴリの記事を読む 徹底解説 住宅ローン 構造 耐震 省エネ 法規 業界 BIM CAD その他
断熱にコストをかけて費用対効果を上げる
─太陽光発電システムの採用率は実際にどのようになっていますか?今回の調査では依頼者の約27%が太陽光発電システムを採用しています。太陽光発電は今まで買取り制度が充実していたので、採用率が伸び続けてきました。しかし、北海道、東北、四国、九州、沖縄の電力5社は、9月30日までに太陽光発電の全量買取り(10 kw以上)の新規受付けを中断することを発表しています[※1]。買取りの申請が急増し、これ以上契約が増えると送電線の能力が足りなくなり、停電などのトラブルを起こす可能性があるからです。この状況が続くと仮定すると、今後は10 kw未満についても、買取り価格を大幅に下げるなど制度を変更せざるを得ないでしょう。そうなれば、太陽光発電への過度な期待は今後難しくなってくると思います。光熱費を抑えるためには、断熱性能をアップさせるほうがよい。太陽光発電の採用と断熱性能を高めた場合の費用対効果を比較すると、今後は断熱のほうが有利になることが考えられます。※1:九州電力は10月21日より、接続申込みへの回答を一部再開している
─コストを考えると、断熱性向上に対して抵抗を感じる建築主がいるようです。住宅の坪単価ごとの仕様の違いを調べてみると、おもな違いは手間のかかる塗り壁などの内装や、造作、システムキッチンの面材の見た目など、意匠性に関するものばかりでした。坪単価が上がっても住宅の基本性能はほとんど変わらないのです。住み心地のよい家にするには、見た目よりも快適性を追求すべきなのですが。
建築主だけでなく設計する側も、断熱性能の向上は非常にコストがかかると考える傾向があるようです。しかし実際はそうでもありません。ある北海道の住宅会社では、約30坪、Q値(熱損失係数)[※2]1.0の家を768万円で販売しています。坪単価は約25万円です。低コストの住宅でも高断熱は努力すればできるはず。たとえば35坪から40坪の建物なら、おそらく1棟当たり数十万円程度のコストアップでかなりハイグレードな断熱性能を確保できるはずです。快適性まで考えれば、やはり断熱性をアップさせることのコストパフォーマンスは悪くないと思います。
─数十万円のコストアップでどの程度の断熱性能が期待できるのでしょうか?※2:Q値とは、熱損失係数のこと。単位はW/㎡・K。住宅の断熱性能を数値的に表し、値が小さいほど断熱性能が低い
Q値でいえば2.0、U値(熱貫流率)[※3]でいえば0.6は期待できると思います[図3]。このくらいの数値までならば、充填断熱と外張り断熱のいずれか片方でも実現可能で、コストもそれほどかかりません。しかも断熱性の高さを十分実感できるはずです。
2020年には改正省エネ基準が義務化されます。それに向けて今から高断熱住宅の設計に慣れておいたほうがよいのではないでしょうか。
─断熱性能をアップさせるうえで断熱材の選択は重視すべきでしょうか?※3:U値とは、熱貫流率のこと。単位はW/㎡・K。住宅の熱の伝わりやすさを数値的に表し、値が小さいほど熱が伝わりにくい
希望する断熱性能が得られるならば、どの種類の断熱材を使用してもよいと思います。ただし、グラスウールなど繊維系は安価ですが隙間なく充填する施工技術が必要です。ウレタンフォームなど発泡プラスチック系はパネル状なので隙間はできにくいのですが比較的高価です。それぞれの特徴をよく理解したうえで、最終的には「施工する側が得意な素材」を選べばよいでしょう。
─断熱性だけでなく気密性も重視すべきですか?建築に携わるプロのなかにも「断熱性は重視すべきだが、気密性はそうでもない」と考える人がいるようです。しかし私はそうは思いません。いくら高断熱にしても、気密性を高めなければ給排気を制御できないので、せっかく温めた空気が出ていくばかりで快適な室温を維持できなくなる可能性があります[図4]。断熱性能と気密性の向上はワンセットと考えるべきです。最低でもC値(相当隙間面積)[※4]2.0以下、なるべく1.0以下にしたいところです。ただし、気密性を上げる際にきちんと換気計画をしないと、空気の密度が高くなることで建具が開きづらいといったことも出てきますので、換気計画も大切です。
※4:C値とは、隙間相当面積のこと。単位は㎠/㎡。住宅の気密性を数値的に表し、値が小さいほど気密性が高い
図3平成25年省エネ基準※平成11年省エネ基準のⅠ地域、Ⅳ地域を2つに細分化
図4気密の低い家