徹底解説 [ 高級住宅 ] 彦根 明氏(彦根建築設計事務所)
更新日2015年06月19日
─上質な空間の設計に、高価な建材は不可欠なのでしょうか。
コストを抑えながら、印象的な開口部をデザインされています。
質の高い空間は、高価で品質の良い建材さえ用いれば、実現できるというものではありません。さらに、実際の設計では、コストに制約があり、高価な建材が使えないケースも多くあります。しかし、そのような場合でも対処の仕方で空間の質を高めることは可能です。
─上質な空間づくりに定評のある彦根さんですが、とりわけ「FKM」という事例では、コストを抑えながら、印象的な開口部をデザインされています。
この住宅の敷地は南側に山が迫り、背の高い樹木も生い茂っていました。これを借景にできるようリビングを吹抜けとし、縦約5m×横約2.5mと大きな開口部を設けています[写真1・2]。建築主は木製サッシに憧れがあったのですが、コストが合わなかったため、アルミサッシを採用することにしました。中規模の住宅の場合、アルミ製なら200万円弱でサッシの費用をまかなえますが、木製では600万円程度は必要になるのです。
このような条件のもとで建築主から「引違い窓を単純に設置するのではなく、モンドリアンの絵画のようにしてほしい」と要望されました。そこで、上下の窓を非対称的に組むことを考えたのです。
─大きな縦連窓を設けることは、構造的に問題ありませんでしたか?この住宅は在来構法による木造2階建てです。実をいうと、窓の中央を横に走る枠は梁なのです。サッシ枠を1階から2階まで通し、梁をサッシと同じ色に塗ることで大きなひとつのサッシとして見せています。また、それぞれのサッシは希望の寸法で特注しました。それでも1割ほどの金額アップで済みます。このような工夫により、サッシのなかでは安価なアルミ製品を使いながら、ほかにはない窓をつくることができました。
事例1●「FKM」
1.上質な空間づくりには「建築とインテリア、全体の調和が大切だ」と彦根氏は語る。特に都市部の住宅には海外製の家具はサイズが大きすぎるので、バランスを崩す要因になりかねない
2.圧倒的な存在感があるリビングの大開口部。南側の景色を大胆に取りこみつつ、通風の役割も担う。下の3枚のサッシは掃出し窓で、庭にアクセスできる
2.圧倒的な存在感があるリビングの大開口部。南側の景色を大胆に取りこみつつ、通風の役割も担う。下の3枚のサッシは掃出し窓で、庭にアクセスできる
所在地/神奈川県鎌倉市 設計/彦根明・多田典生 施工/東海建設、成幸建設 構造・規模/木造2階建て 敷地面積/285.17㎡ 延床面積/94.40㎡ 工事期間/2010年6月~12月
家を新築するとき、建築主の夢は大きくふくらむ。
取材・文=森 聖加 人物撮影=渡辺慎一建材にこだわる人も多いし、理想とする空間の
イメージが固まっている人もなかにはいるだろう。
実際に計画を進める場合に、さまざまな条件をクリア
しつつ、質の高い住宅をつくるにはどのような手法が
あるのだろうか。独立以来、20年間で約200軒の
個人住宅を設計し、美しく、上質な空間づくりに
定評のある建築家の彦根明氏に聞いた。