徹底解説 [ 高級住宅 ] 彦根 明氏(彦根建築設計事務所)(2ページ目)

更新日2015年06月19日

見せ方の工夫で特別感を出す

─コストに制約があったことを感じさせない仕上がりですね。

はい。この事例では、ほかにも安価な建材を用いながらも、素材そのものの良さを引き出す工夫を凝らしています。たとえば、前述したサッシのデザインを生かすために、サッシと取り合う壁の仕上げにはレンガタイルを選択し、その上から白塗装を施しました。レンガのテクスチュアを強調することが重要だったので、素地の色は関係なく、インターネットで廉価な製品を見つけて採用しました。

リビングの床はクリーム色のカラーモルタルで仕上げ、吹抜けに設けた渡り廊下のような通路は、バラガン邸を想起させる鮮やかなピンク色の塗装仕上げとしました。安価なものを使っても、テクスチュアの操作や色使い、光の反射などを工夫すれば、空間に高級感や特別感を出すことが可能なのです。

一方、延床面積400㎡超の住宅「SHS」のような事例もあります。こちらは庭まで含めて坪100万~120万円の予算でした。

─構造は何ですか? 外観はRC造のように見えますが。

建築主はコンクリートの雰囲気を好んでいましたが、コストの都合上、木造にしました。ただし、広い空間を要望されたので、柱や間仕切壁を少なくできるSE構法を採用しています。

仕上げでは、本物の素材がもつ質感を大切にしました。流通経路や産地を特に指定しなければ、石材であれ木材であれ、価格を抑えた製品が増え、選択の幅は広がっています。それらも使い方次第で十分に上質な空間を構成する部材となるのです。

たとえば、この事例では玄関アプローチに玄昌石を敷きました[写真3]。玄昌石といえば少し前までは高価な石材として知られていましたが、今は各国から廉価なものが輸入されているので、採用しやすくなっています。アプローチに沿った塀は天然石の小端積みです。石を1つずつ積み上げると高価になりますが、積層した状態でパネル化した比較的手頃な製品があります。表面は天然石でも躯体はコンクリートなので、石積みの重厚感を演出しながらも、コストを抑え、安全性も確保できているのです。

リビングの床は、ブラックウォルナットを表面板に用いた積層フローリングで仕上げています[写真4・5]。表面板が厚く木の質感が足触りでしっかりと伝わってきて、さらにF☆☆☆☆認定を取得している健康に配慮したものを選びました。私は、ムクの木材に対して節度をもって慎重に使うように心掛けているのです。コストへの配慮もありますが、無制限にムク材を消尽することは、原産国での乱伐につながりかねないためです。

─建材の使い方以外で、上質な空間を生み出す工夫はありますか?

プランを工夫することで、心地よく感じられる空間をつくるようにしています。事例「SHS」は敷地が広く、大小の庭を4カ所に点在させ、それらが各部屋を取り囲むような配置にしました。それぞれの庭に異なるテーマと使い方を与えると同時に、個室の窓から庭越しにリビングの部屋の明かりを見せたり、2面に設けた窓からの眺めに変化をつけるようにしています。どの部屋も窓越しに向かい合うのは自分の家の一部なので、外部からの視線を気にする必要はありません。カーテンなしで開けていられる窓を多く設けることは、視覚的にも心理的にも開放感を印象付けることにつながるのです。

また、子どもが幼い時期、成長した時期、あるいは巣立った後という時どきで、家の使い方が変化してゆくのは自然なことです。固定されたプランが暮らしの足かせにならないよう、ライフスタイルの移り変わりを想定しておけば、住宅の質を向上させることができます。

事例2「SHS」

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3.外構やアプローチに使用する素材に工夫を凝らし、上質感を高めた。塀は型となるスギ板に浮造りを施し、板目をくっきりと映し出したコンクリートの打ち放し。外壁は塗り壁一面で固めず、ムクのベイスギを使用 4.2階子供室からは2つの窓からリビングが見える 5.1階LDK。庭とのつながりを強調した
写真提供:彦根明
05 所在地/東京都世田谷区 設計/彦根明・川村浩二 施工/渡邊技建 構造・規模/木造2階建て 敷地面積/416.23㎡ 延床面積/297.22㎡ 工事期間/2009年2月~10月
建築知識研究所

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