徹底解説[ 省エネ・断熱(住宅編)]岩前篤氏(近畿大学)
更新日2016年06月07日
─高断熱住宅は、住む人にどのよう な影響を及ぼすとお考えですか?
先年、「高断熱住宅の健康影響度調査」というアンケートを実施し、 その結果をまとめました。これは、2002年以降に新築された高断熱住宅に転居した人を対象に、転居前後の健康状態をアンケート調査で尋ねて比較した調査です。高断熱住宅に移って、「風邪をひきにくくなった」「痛んでいた膝の具合がよくなった」「喘息やアレルギー症状が緩和した」という回答が寄せられました[図1]。また、断熱性能が上がったことで、「入居前よりも健康が改善された」と答えた人の数が多くありました[図2]。調査前には「あまり反応がないのでは」と予想していたのですが、実際には多くの健康改善事例が報告されています。
─それは、高断熱住宅に住むことが、健康にプラスの影響をもたらすということでしょうか?「症状が改善した」というのは、高断熱住宅で暮らす人自身の主観的な感想なので、医学的に検証されているとはいえません。この調査はあくまでも高断熱住宅で暮らす人の自覚的な健康についてのリサーチであり、医学的な因果関係を検証したものではないのです。しかし、高断熱住宅に住む多くの人が、諸症状の改善を実感しているのは事実です。その理由として、高い断熱性能が冬の寒さを緩和したことが考えられます。
図1症状改善率の増加程度
高断熱住宅に転居後、転居前の症状が出なくなった人の割合。どの症状も、断熱グレードが上がるほど改善されている。気管支喘息などの健康改善率は6割を超える
※1 断熱性能は、サッシの材質とガラスの枚数から推定している。東北以南ではアルミサッシ+単層ガラスを等級3、アルミサッシ+複層ガラスを等級4、樹脂サッシ+複層ガラスを等級5としている
図2高断熱住宅に転居後の健康改善率
青は、等級3から等級4の住宅へ転居した人の健康改善率。オレンジは、等級4から等級5の住宅へ転居した人の健康改善率。断熱性能が高いほど、改善率が高くなることが分かる
現在、住宅にはこれまで以上に高い断熱・気密性能が求められている。「健康」をキーワードに省エネ住宅の性能について研究を重ねている近畿大学教授の岩前篤氏に、高断熱住宅の重要性と今後の住宅のあるべきかたちについて伺った。
取材・文=藤城 明子 人物撮影=石井 真弓