徹底解説 [ 地盤・基礎 ] 小長井 一男氏(横浜国立大学教授・都市イノベーション研究院

更新日2015年07月03日

危険地盤の見極め方

徹底解説 地盤・基礎 小長井一男氏(横浜国立大学教授 都市イノベーション研究員)

中・大規模の地震で建物が大きな被害を受ける場所とそうでない場所がある。建築物の被害には、地盤の善し悪しが大きく影響している。では、地盤の良否を分けるものとは何か。住宅を建てる際、どのような対策をすれば安心できるのか。
地盤・地震工学が専門で、国内外の大規模地震の現地調査を数多く行っている横浜国立大学の小長井一男教授に聞いた。

取材・文=松浦美紀 人物撮影=石井真弓

地盤が弱い土地は地震がなくても動いている

─地盤工学の観点から、地震による家屋倒壊の被害に、地盤が及す影響について教えてください。

家屋の倒壊などの被害の原因は、地震だけではありません。たとえば、地下水を大量にくみ上げている土地、地盤が軟弱な土地などでは、採水や軟弱さの度合いがそれぞれ一定条件を超えていれば、地盤は普段から少しずつ沈下しています。見た目では分からなくとも、建物の重みだけで地盤が移動していることもあります。地盤がそのような状態になっていると、建物の躯体に耐震性能をもたせても期待するような効果は望めません。地盤が変形しやすかったり水分を多く含んだりしていると、基礎の損傷やシロアリによる被害が発生しているおそれもあり、そこに瞬間的な揺れが加わることで、大きな被害につながります。地震被害の原因は、半分が揺れ、半分が地盤によるものです。地盤が及ぼす影響は非常に大きいといえます。

─そのような土地を見極めることはできますか。

1つには、古い地形図[地形図:測量に基づいて地表の形を表した地図。土地の起伏は等高線で表される]と現在の地形図を見比べる方法があります。標高の変化を見ることで、古い地形図よりも現在の標高が高くなっていれば人工的に土を盛った「盛土」であり、低くなっていれば「切土」であることが推測できます。

先年横浜で、集合住宅の建物に傾斜が発生していたことが問題になりました。建物のなかにいても分からないくらい少しずつの変化でしたが、外側の手すりなどに何カ所かずれが現れたので調べたところ、10年くらいかけてじわじわ建物が傾いたことが判明したようです。横浜のこのあたりはもともと丘陵地で、この敷地も谷筋を切って埋めた場所です。建物は、元の土地と盛土をした土地にまたがって建っていました[図1]。盛土部分の基礎杭の一部が固い地盤に届いていなかったことが傾いた原因と報道されていました。こういう場所では、地震が起きなくても変形が生じえるのです。

横浜市では、昭和初期から中ごろにかけての3千分の1都市計画図[都市計画図:地方自治体が、地形図をもとに都市計画の内容を記した地図。都市計画道路の位置や用途地域などが記されている]を整備していて、現在はそれらをウェブで見ることもできます。調べようと思えば、昔の地形図を見ることは一般の人でも可能です。

事例1横浜・土地の高低差マップ(1929年02013年)

横浜・土地の高低差マップ(1929年02013年) 都市計画図を元に作成した図。青い部分は切土した土地、赤い部分は盛土した土地。枠内の青と赤の部分にまたがって集合住宅が建てられた。土地の状態に応じて基礎杭を打つ必要があったが、赤い部分の基礎杭が支持地盤に届いていなかったため、建物が傾いたと思われる。
建築知識研究所

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